しみったれた話

葬儀の準備をしながら、父方の祖母の葬式を思い出した。当時アルツハイマーが進行し、息子や孫が一体誰なのか判別できなくなりつつあった祖母は、徘徊癖も併発し、よく家を抜け出そうとした。結局座敷牢に近いような形で祖母を介護することになったのだが、祖母はそれでも家を抜け出そうとした。老人ホームなり何らかの施設に預ける手もあると当時の自分は思ったが、なぜかそれは成されなかった。家での介護が続き、鍵のはずし方さえ忘れてしまっていた祖母は、玄関の取っ手を押したり引いたりして扉を開けようとした。あまりにもその力が強い為に、扉が壊れてしまうのではないかと一瞬考えたこともあった。
日々衰え、下の始末さえ出来なくなっていた祖母だったが、それでも扉の押し引きの力は一向に衰えることが無かった。扉を押し引きする音はほぼ毎日するようになり、介護の日常に溶け込むほどだった。ある日、扉の押し引きする音がしなくなった。祖母が逝ったのだ。
火葬場で、すっかり骨だけとなった祖母の焼骨渡しをする段になって、私は骨渡し専用の部屋の入り口に突っ立っていた為、他の親戚に押し込まれるように奥へと追いやられ、渡ってきた骨を骨壷に入れる役をやらなければならなくなった。一番大きく、焼け残りやすい大腿骨から順番に骨が渡されていき、骨壷に収めていきながら無意識に手の骨に目をやった。ほぼ毎日扉を力強く押し引きしていた祖母の手の骨は、跡形も無かった。